認知症の利用者の方と接する場合は、「認知症による行動に注意を払わなければならない」のであって、「その人の人格に問題がある」わけではありません。
しかし、人を判断する時には、どうしてもその人の言動や行動に注目するのが当然ですし自然です。
認知症の方と接する際に難しいのはその考え方を少し変えなければならない点です。
また、認知症の方を「認知症の人」として扱うのではなく、「その人」としての尊厳を維持しなければならないという倫理的観念も認知症の方と向き合うことを難しくしている理由でしょう。
ここでは、認知症の利用者の方と上手に付き合っていくための接し方について考えていきましょう。
認知症の方に限らず、人が対人関係でストレスを感じるのはコミュニケーションがとれない時です。
「相手が何を伝えたいのかわからない」「こちらが伝えたいことが伝わらない」などといった時は不安にもなりますし、もどかしい気持ちが募っていきます。
また、まったく予想ができない行動も同様で、認知症の方の突発的な行動に対して「なぜ?」と考えて理解できない場合にもストレスが溜まってしまいます。
十分に意思を伝えることができなくても、相手の意思を理解することができ、なおかつそれに応えることができるようになればストレスは減少します。
精神的な余裕を確保して認知症の方と上手に接するには、やはり認知症について十分理解するのが大切になってきます。
認知症症状には記憶障害や見当識障害、失語、失認、失行などの「中核症状」と徘徊、弄便、妄想、暴言暴力などの「周辺症状(BPSD)」があります。
中核症状は脳の機能低下が原因なので、認知症の進行とともに症状が顕著に表れることになりますが、周辺症状はどちらかというと本人の体調や気持ちによって変化すると言われています。
例えば、水分が不足して脱水状態の場合や便秘の状態が続き体に不快感がある場合、白内障などが進み急激に視力が低下してきた場合、薬の副作用が出ている場合などには周辺症状がひどくなる傾向にあります。
また、環境が変わってトイレの場所が分からない、部屋の雰囲気が変わってしまって自室だと理解できないなど、不安が大きくなるような状態も良くありません。
認知症を理解することができれば、どういったときに周辺行動が出やすいかが分かってきます。
もちろん普段落ち着いているのに突然怒り出す方もいますが、それにも何らかの原因があるはずです。
その場では理解できなくても、生活スタイルや認知症を発症する前の性格などを理解することができれば、次第に対応方法も見えてくるでしょう。
認知症の方と接する機会の多い介護職の方は、認知症について理解を深めるとともに、「うまく接するためにはそれ相応の時間がかかる」ということを念頭に置いてゆとりを持って接するのが大切です。